これは、どうしたことなのだろうか。
久しぶりにクルル少…ではなかった、曹長を訪ねに行ったら。
彼に押し倒された。
以前は上司と部下の関係だったとはいえ、押し倒されるなんて何たる失態だろうか。
いえ、そうではなくて。
なにがなんだかわからずに、自分の上にのしかかる彼を見やる。
呆然としている私を見つめ
「ずいぶん…久しぶりだなぁ。俺なんかに押し倒されるなんてなまったんじゃねえの?」
と不機嫌そうな声でもらすと同時に私の上からどいた。
それから何事もなかったように彼が事務的なことを話すので、腑に落ちないままそれに応じた。
先ほどのは、いったいなんだったのだろうか。
昔だったのならばまだ理由はわかる。
あの頃は………好きだの嫌いだの愛しているだのいないだの問う関係とは本質は違うがそれと同等な。
だが、ある日突然ふられた、いや、逃げられたのだ。
そうして、そうして。
ぐるぐると巡る思考があまりにも自分よがりな物へと変わっていく。
これは、よりを戻したいということか…?
そこまでいったところで、そんなことはないと思い直す。
そうであったのならそもそもあんなことになるはずはないのだから。
そんな気もないのにくらくらと自分を惑わす彼は、何て嫌なやつなのだろう!
「私は、あなたが嫌いです。」
そうクルルに言うガルル。その問いかけはあまりにも唐突だった。
しかし、何事もなかったようにクルルは発言を受け流す。
「あなたは、独りよがりで我が侭で……。それでだれかがあなたのそばにいてくれるはずがないでしょう」
ふん、と鼻を鳴らしたクルルは
「はっ、上等だぜぇ。そうなるようにふるまってんだからよぉ」
と返す。
「そのようなところを言っているのです。お分かりになりませんか?所詮、天才と呼ばれていても子供は子供ですね。」
「その子供に汚いこととかをさせているくせによく言うぜ。どうせ、俺がいなきゃもう軍は技術的に成り立たない部分があるくせに。」
坦々とした受け答え。両者の発言はどれも正しく、そしてまた矛盾をはらむ。相手の矛盾を指摘し、言い争うがために。
こうも、言い争うことができるのは、互いが気に食わないからであろう。
いつまでもいつまでも、言い争う。
「いちどあなたは痛い目にあってみるべきです。世の中における自分の価値をしればいいのです。」
「ああ、自分の価値は自分がよおくしってるぜぇ?そういった偉そうなことを言う前にまずは自分があってみたらどうだぃ?」
「そうですか、なら、それがどういったものなのか見せてもらいたいものですね。」
「そんな機会が万が一にでもあったらよいぜぇ。あったらの話だけどなぁ?」
皮肉交じりの口論、ここに極めり。といった様子で吐き捨てる両者。
そんな彼らが、上司と部下でなくなるのはまだまだ先のこと。