彼のトレードマークと言っても過言でない左目の傷。
どういった経緯で負ってしまったのか、彼は語ってくれたことはない。
まぁ、俺にだって人にはできればしゃべりたくないこともあるし、そもそもその事について尋ねた事もない。
そっと、彼の傷をなぞる。
なぁ、と耳元で囁けば
「なんだ」
と返事が返ってくる。
それに気を良くして笑いかけると、驚愕した顔を見せる。
微妙に離れようとするのを押さえ込んで、また、傷をなぞる。
この傷が、跡が、気に入らない。
彼の全てを把握したい。
何でついたかは知らないが、それがますます気に入らなくさせていく。
これが、俺がつけたものであったのなら、それ以上の幸せはないだろうと思う。
跡を刃物でなぞって、彼の全てを手に入れられれば良いのに。
ひねくれ者の俺には、たずねることができない。
そして嫌われたくない俺は、傷をつけることもできない。
ただ、傷をなぞるしかできない。
―昼―
はあ……。今日もアイツは表へでんのか……。
こんなにもよい天気だというのに。空気は冷たいが日差しは暖かい。
どうせ、外へ出ろと言ってもアイツは"俺の性に合わないぜぇ~"とかなんとか言って出てきたりはしないだろう。
そういえば、誰かがアイツを月のようだと比喩していた。イメージはその通りだが、気に食わない。
時間を共有したいと思うのに。近いのにかみ合わない。
ただ自分が向こうへ行こうとすればいいだけだが……。
―夜―
モニターごしに今日も監視する。それが俺の仕事だ。仕事はもっぱら夜が多い。
昼は小隊のヤツらがいるからそれほど監視している必要はないからだ。
誰の気配もしないラボ。モニターの世界も静まり返っている。
当然だろう。深夜なのだから。
暗い、暗い。ここには淡く弱い光しかない。
ああ、さんさんと降り注ぎ身を焦がすような光が浮かばない。
いつから偽りの光に身を置いた?
太陽の下にもっともいる人__ギロロ__に会えば、思い出せるだろうか?
―朝と夕―
すれ違う、太陽のようなケロン人と月のようなケロン人。
一目みたいなら、見ればよいのに。話したいなら、話せばよいのに。会いたいなら、会えばよいのに。
だって、太陽と月が朝と夕に一つの空に浮かぶように。
彼らもまた、同じ時間を共有する瞬間があるのだから。
でも、彼らは気づかない。まだまだ気持ちがあやふやだから。
気がついて、一歩踏み出せるのはいつだろうか?